百合作品紹介 ツインスター・サイクロン・ランナウェイ

大まかに紹介すると「宇宙で漁師を目指す二人の女が、窮屈な社会の壁を越え、より深い絆を得ていく話」です。

百合であり、宇宙SFであり、フィッシングでもあります。

大筋の流れは二人の仲に注目していますが、舞台としている宇宙SFが超重厚な設定で、どっちの要素も良い塩梅で楽しめます。

マジで設定凝ってて、表紙で百合だと思って読んだら高濃度のSFでぶん殴られました。

出だしから”ガチの宇宙観”全開で、「あ、これライトノベルじゃないかも…」と身構えたんですが、次第に百合要素が顔を出して私たちを安心させてくれます。

だんだんと深まっていく二人の絆。

クライマックスに明かされる宇宙の謎の一端。

いい感じに2つの要素がマーブルした、他に見ない”百合”だと思います。

 

百合要素について

二人の馴れ初めの話なので、百合要素はライト寄りだと思います。

イチャイチャが少ない反面、初恋すらしたことのない主人公(テラ)の心情の変化が細かく表現されていてめっちゃ良いです。

そのテラの相方のダイオードがめっちゃ良いデザインでして。

低身長かつショートヘアの銀髪。メタルな耳ピアスとか似合いそうな気の強い女の子なんですけど、こういう娘が女の子好きなの良くないですか?

私は大好きです。

見てくださいこれ。

この白い子がダイオードです。可愛いですね。

…いいえ可愛いどころの話じゃない。

小さな体で迫るダイオード。それを受け入れるテラ。

何ですかこの構図は!絶対にこの後キスするじゃないですか!

そして二人の関係を「誰に知られようがどうでもいい」と言わんばかりの読者に向けられた無関心な眼差し!

社会なんぞ知るかと。もう互いのことしか見ていないんですよ。

このイラストに本作の全てが詰まっていると言っても過言ではないです。

 

あと個人的に好きなポイントがこの衣装。

この世界では宇宙船に乗るときは、互いの目を満足させるためにバッチリおめかしする常識があるんですよ。何そのめっちゃ素敵な文化。

大きな体をゆったりと包むテラのドレス。

方や引き締まったボディラインを強調するダイオードのドレス。

誰もいない宇宙でおしゃれした二人がコックピットで浮かんでいる様子、めっちゃエモくないですか?

作者の世界観形成には脱帽せざるを得ません。

他にも色々なドレスを着てくれるのですが、挿絵が無いのでそこは想像で補うしかないです。(マジで挿絵欲しかった。)

表紙ではラブラブですが、最初から相思相愛というわけではありません。

ダイオードは最初テラの元へいきなり現れ、漁船の操縦士を志願した怪しい人物でした。

本名も知らないし、何やら物騒な秘密を抱えている様子。

ですがそれを許容するテラの優しさに触れ、だんだんと心の距離が近づいていく訳です。

 

好きなのに、お見合いを控えたテラの迷惑になりたくないから言葉にはできない。

テラはテラで心が傾きつつも、初めての感情がどういうものなのか測りかねている。また理解してしまったとき、その感情は許されるのか。

そんな甘くて苦い二人の懊悩が堪りません。

イチャイチャも良いですが、こういう甘酸っぱいフェイズはくっついた後では見れないですからね。

本作の良いポイントです。

 

二人は漁師を目指してコンビを組んだ結果、相性は最高で文句なしの最強の漁師になれるはずでした。

しかしこの世界では女性蔑視の風潮があり、百合は違法レベルの非常識的行為であるため、二人で漁をすることは認められません。

冗談みたいに聞こえますが、マジです。

地球を離れてから数千年以上も後の世界で、女性蔑視なんて感性古くない?と思っていたのですが、これにはちゃんと宇宙サバイバルを生き抜いた世界ならではの理由付けがされています。

 

宇宙SFとフィッシング

前提として現在住んでいる惑星の唯一の資源が、宇宙を泳ぐ謎の魚です。

これを獲って生きてきたから漁業は発展し、漁師の結婚には一族の繁栄を左右する重要な意味が込められているのです。

”漁師になる=婚約して子供を作る”という絶対の基礎があるからこそ、これを蔑ろにするなど何事かと怒られるわけですね。

移住してからまだ300年の歴史しかないので、そういう生々しい事情もさもありなんって感じです。

二人からしたら溜まったものじゃないでしょうが。

 

さて、二人はこの息苦しい社会で居場所を作ることが出来るのでしょうか。それとも…

次巻が楽しみです。

最後に

挿絵がないので想像が少し難しい作品だと個人的に思いますが、読んでいる内に慣らされていくので大丈夫です。

表紙見てビビッと来たら読んで損はないと思います。

二人の心情の遷移はスマートに描かれていて、滞りなく読むことが出来ます。何より読んでいて面白い!

SF要素もありますからただの百合では終わりません。

読み終えた後、序盤を読み返したくなるような、そんな作品でした。